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周りから浮くのが怖い…自分を縛る「目に見えないルール」から“ありのままの私”を解放するまでを描いた青春小説

2024年4月24日

  • 透明なルール"
    『透明なルール』(佐藤いつ子/KADOKAWA)

     その場に適した色に染まることが美徳とされやすいこの社会の中では時々、息苦しさを感じる。空気を読んで適切な行動を取ったり、人の顔色をうかがって言葉を選んだりする日常は、目に見えないルールに心が縛られているようだ。


     そうした生きづらさと闘っている人に、ぜひ読んでほしいのが『透明なルール』(佐藤いつ子/KADOKAWA)。作者は、中学受験の国語の問題に多数の小説が出題されている実力派作家。本作では、ある少女の変化を通して、自分の心を縛るルールとの向き合い方を説いている。


     中学2年生になった佐々木優希はクラス内で目立つ“一軍女子”と仲良くなり、グループの仲間入りを果たした。これで、孤立しなくて済む。華やかで目立つ一軍女子といれば、いじめられることもない。


     そう安堵していたが、次第に友達との関わり方に悩むように。本心ではいいと思っていない友人のSNS投稿に「いいね」を押したり、グループ内のリーダー・瞳子の顔色をうかがったりする日常に苦痛を感じるようになったのだ。


     加えて、優希にはもうひとつ悩みが。母が病死し、父子家庭であることから、生理用品が必要な時、言いだしづらくて困ってしまう。また、心優しい性格から家計を気遣い、やりたいことよりもできそうなことを無意識のうちに選ぶようになっていた。


     家でも学校でも、自分の意見を押し殺すのが優希にとっての当たり前。だが、自己犠牲なその価値観は2人のクラスメイトと心の交流を交わす中で、大きく変化していく。


     変わるきっかけをくれたのは、自分の意見をしっかり持つ不登校の米倉愛と、周囲にいじられても好きなものを貫く荻野誠。2人の生き方や価値観に触れた優希は自分が、周囲の反応を勝手に予想し、目に見えない“透明なルール”を自身に課していたことに気づく。


     大切な気づきを得た優希は、自分の本心を解放することに。ありのままの自分で、父親や友人に向き合い始める。


     本作は、人間関係を築く中で感じる生きづらさに寄り添ってくれる作品だ。自分の在り方に悩む10代ならではのリアルな心情が綴られているため、同世代は共感必至。10代の読者は人目を気にする優希に起きた変化を目にすると、自分を縛っている“透明なルール”はどんなものなのかと、考えたくなるはず。


     また、大人世代は家と学校が世界のすべてだったあの頃を思い出し、自分を見つめ直したくなる。見えない同調圧力に従いつつも抗いたいと思っていた、かつての自分に今の自分はどう映るのだろうか。


     いくつになっても、人は周りから浮くのが怖い。自分らしさを貫いて「出る杭」になるのにも勇気がいる。だから、自分や誰かに向けられた周囲の言動を参考にしながら、上手くやっていけると思える“透明なルール”を自分に課して生きていく。


     だが、私たちは同じ思考や感情を持つようにプログラミングされたロボットではない。100人いれば、100通りの考え方があって当然だ。たとえ、誰にも理解されない部分があったとしても、それは大切なあなたらしさ。人の心は透明なルールで縛れないほど、自由で複雑なものであるからこそ、尊いのだ。


     そんなエールも感じ取れる本作の温かさは、誰からも認められる理想的な私になりたいと日々頑張っている人に届いてほしい。


    文=古川諭香


    登場人物

    ◆書誌情報『透明なルール』(KADOKAWA)
    https://yomeruba.com/product/story/child/322309000749.html

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