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「先進国の子どもの幸福度ランキング」日本は下から2番目。10代の子どもたちが抱える葛藤や苦しみや怒りに耳を傾ける

2024年4月23日

  • 君の声が聴きたい"
    『君の声が聴きたい』(双葉社)

     子どもの頃、大人が知った顔であれこれ指示してくるのがいやだった。確かに私の考え方は幼くて、間違っているのかもしれないし、善意で手を差し伸べてくれているのはわかる。それでも私は、誰かが既に経験してしまったことを担保に知ったかぶりをするのではなく、自分で経験して、実感のある言葉を使いたいと思っていた。


    『君の声が聴きたい』(双葉社)を読んでそのことを思い出したのは、いつのまにか自分も、あの頃いやだなと思っていた大人になっていたことに気づかされたからだ。


     2020年のユニセフによる「先進国の子どもの幸福度」の調査で、日本の「精神的幸福度」は38ヵ国中37位だった。これを受けて、NHKがスタートさせたプロジェクトが『君の声が聴きたい』で、本作は寄せられた10代の「声」を一部、書籍化したものである。


     家族や学校にまつわる苦しみ、他とは異なるジェンダーや障がいをもつことへの葛藤、希望をもてない政治や世界情勢への不安と怒り。率直な彼らの声は、正直、耳が痛かった。現実で、同じことを相談されたとき、自分はちゃんと聴くことができるだろうか。わかったような顔で諭そうとしてしまうのではないか。目の前にいるその子の感情ではなく、自分の経験談を誇らしげに語ってしまいはしないか。そんな不安を抱えながら、本書にこめられた切実な想いを、一つひとつ読んでいった。


    〈親とかに悩みを話しても、あんたが悪いって責められる時があって、せっかく勇気を出して相談したのに否定的な言葉を言われると傷つく。共感だけでもしてほしい。否定しないでほしい。最後まで話を聞いてほしい。優しく受け止めてほしい。(略)助けてほしくても声を上げられない人もいることを理解してほしいです。〉――これは17歳の女性の言葉。【P26】


    〈私は、叱られても注意してくれてありがとうって思わなくちゃいけないのに、ずっと思えません。(略)でも、父は悪気がないんです。(略)だったら、私が悪いって思うしかないじゃないですか。〉――これは15歳の女性。【P44】


    〈いろんな大人が「多様性」だとか「尊重」だとか言っておきながら、結局価値観や生き方の違いに対して先入観をもち、争ったり卑下したりしてしまうのは我々子どもよりも大人のほうが多いと感じる。〉――15歳の男性。【P105】


     子どもに対して、だけでなく、これはすべての「人」に向き合うときに忘れてはいけないことだと思った。SDGsや男女平等について中学生の自分たちが学ぶより先に大人に学んでほしい、と言葉を寄せた12歳の男性もいたけれど、まったくそのとおりである。彼はこうも言う。


    〈中学生が学んだところで解決はほど遠い。しかし、大人が学べば男女平等の社会はすぐそばにあると思う〉【P126】。


     巻末に収録された対談で、又吉直樹さんがこう言っている。〈僕は、大人が偉いとも思ってないし、反対に、子どもが偉いとも思ってない〉。私たちに必要なのは、子どもを導いてあげるのではなく、善悪をジャッジしながら正しい社会をつくることでもない。痛い、苦しい、悲しい、と声をあげている人たちの声に耳を傾け、一つひとつ改善していくことなのではないだろうか。


    文=立花もも

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