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ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』

2024年5月7日

  •  ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年6月号からの転載になります。


    『ここはすべての夜明けまえ』


    ●あらすじ●


    「二一二三年十月一日ここは九州地方の山おくもうだれもいないばしょ、いまからわたしがはなすのは、わたしのかぞくのはなしです」。1997年生まれの主人公「わたし」は、2022年に父のすすめで体を機械に置き換える「ゆう合手じゅつ」を受け、25歳のまま永遠に老化しなくなった。術後約100年経ったある日、彼女はかつて父に言われた言葉を思い出し、家族の歴史を手がきで綴り始めることにしたが――。


    まみや・かい●1992年、大分県生まれ。本作で第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞し、デビュー。


    編集部寸評


    時間もジャンルも超えて


    機械の身体を手に入れた「わたし」は、高性能AIを搭載したアンドロイドになったわけじゃない。平仮名を多用した文体が、純粋な人間性を醸している。八百比丘尼のごとく長い年月を生きる彼女の視線は、未来より過去を見つめ、言葉からは希望より無常を感じる。万感の思いで最後の頁をめくると、初出クレジットが目に飛び込む。本書はハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作である。だが初版帯に記載はない。あえて謳う必要はないと判断したのだろう。理由は、読めばおのずと理解できる。

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